「ロボピッチャーが出来るまで」   第三章(前編)

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ロボピッチャーが出来るまで 第一章
ロボピッチャーが出来るまで 第二章
 

  森崇さんについて

  森さんと最初にあったときのことを思い出せない。
  おそらく場所はネガポジというライブハウスだと思う。
  ネガポジは僕の音楽人生の前半のほとんどすべてのことが起こった場所だ。
  僕はここで、音楽の核心を手に入れた。

  ネガポジのことを少し書く。
  僕とありちゃんがカリフラワーズというバンドをやっていた頃、主な活動場所はRAGというライブハウスだった。
  当時そこの店長だった寺島さんという人にずいぶんと良くしてもらって、活動を続けていた。月に一回くらいは出演していたし、良いライブがあったらこっそりただで入れてもらったりしていた。RAGの店員さんとバンドを組んだこともあった。
  当時ライブハウスの店長さんが目をかけてくれるってのがなんかすごくうれしくて、僕とありちゃんは毎晩のようにRAGに通った。そこでなぜかへんなプロレスのビデオを見せられたり、寺島さんの漫画論を聞かされたりした。
  ある日寺島さんが僕に行った。おそらく時間は午前4時ごろで僕は死ぬほど眠かった。

「おい加藤、奇面組で一番面白い回を言ってみろ」
「は?あー。はい。えーっとハイスクール奇面組の2巻の・・・」
「あほかっ!!」
「ええっ?!」
「奇面組で面白いのは3年奇面組までや!なにがハイスクールや!!」
というような感じだった。ちなみにこの会話はその後2時間くらい続いた。マンガを語ることに妥協のない人だった。

  で、その寺島さんがRAGを辞めて、移ったのがネガポジというライブハウスだった。御所の南にあるそのライブハウスは、RAGの寺島さんの前の店長である山崎さんという親父が店長で、寺島さんはそこに引き抜かれる形で入っていた。僕は寺島さんに電話で呼ばれて、ネガポジに初めて見に行ったことを憶えている。大半を手作りで作ったとも思えるその妙に雰囲気のある箱の端っこで寺島さんが、にやにやと笑っていた。
  立ち見で100人入ったらいっぱいのライブハウス。
「音はいいの?」と僕が聴いたら、
「聴いてみれば」と寺島さんが言った。
  正直言って当時の僕に音の良し悪しなんてわからなかったけれど、なんとなく音を聴いて「うーん。カツンと来る音ですね。あったかみもあるし、僕は好きです」とか言った。
  寺島さんは満足そうに「だろ?」って言った。

  その一ヵ月後に僕はハラッパ=カラッパというバンドでネガポジに出演する。
  生まれて初めて自分の曲でライブをした。
  その打ち上げで「お前の曲はすごい」って寺島さんが言ってくれた。
  僕の曲を褒めてくれた初めての人が寺島さんだった。
  ただ、寺島さんは基本的にバンドに対して辛口で、それは今から考えても辛口すぎて、「パーカッションが駄目だから辞めさせろ」とか「ベーシストの音楽に対する態度がなってない」とか言い出してむちゃくちゃだった。実際にいろんなバンドの気に食わないメンバーを辞めさしたりしていた。ライブハウスの人の意見って、若いミュージシャンにとっては神様の言葉と一緒だから、なんとなく信じちゃうのである。
  その後、僕は寺島さんとものすごく長い時間を一緒に過ごした。寺島さんはその後レコーディングエンジニアになるのだけど、彼の録音した最初のバンドがハラッパ=カラッパだったし、ワンピースやハンターハンターが出るたびに飲みに言って感想を言い合った。寺島さんの引越しを手伝ったり、一緒にバンドをしたり、一緒に曲を作ったりした。ものすごい量のお酒を一緒に飲み、たくさんのマンガの貸し借りを繰り返し、何回も喧嘩した。
  引越しを手伝った時に、家に行ったら何の準備も出来てなくて、びっくりしながらも文句を言わずこつこつ運んだ。
  膨大な時間の後、なんとか引越しが終わり、文句を言った。
「無駄なものが多すぎる。引っ越す前に処分してよ」
「無駄なものなんてないもん。全部必要なものやで」
「じゃあこれは?」といって僕はすぐそばにあった切れた蛍光灯を手に取った。
「うん。それはいらんな」
「あとこの週刊プロレスの膨大なバックナンバーは?」
「それは宝物やからすてれへん」
「わかった。じゃあええわ。」
僕より6歳くらい上だったけれど寺島さんは誰より近い存在だったように思う。

  ちなみに今は結婚されてちょっと遠くに行ってしまった。幸せそうだ。
  2ヶ月ほど前にネガポジで、当時のいろんな人があつまる同窓会みたいな日があったのだけど、そこで寺島さんがベースを弾いているビデオを見たら、すんごいへたくそで笑った。いや、寺島さんは凄腕のベーシストで、本来はめちゃくちゃうまいのだけどその日は初めてフレットレスベースでライブにのぞみ、見事に轟沈していた。僕はそれを指差して笑い「寺島さん!寺島さん!リズムと、音程と、フレーズが駄目なベーシストがいるよ!」と叫んだら、耳から脳みそが飛び出るんじゃないかってほど殴られた。面白かった。

  で、やっと話は森さんのことになるけど、森さんとは寺島さんの紹介で出会った。
  当時寺島さんが一緒にやっていた原田博行という人のレコーディングエンジニアで、ドラマーだっていう話だった。
  ちなみに原田さんは、ありちゃんも所属する「京都町内会バンド」のボーカルである。その人のソロアルバムを制作しているのが森さんだった。その音源を寺島さんに聞かせてもらったときに本当にびっくりした。僕は良いライブは全国どこにでもあると思っていたけれど、良いCD音源は東京のすごいスタジオに行かないと録音出来ないと思っていた。でも、この原田博行ソロアルバムはめちゃくちゃすばらしくて、その中でも「君にうつる僕」という曲は秀逸だった。
  試聴できます。http://www.obu.to/shop.html

  まあなんつうか、恥ずかしい話だけど、ソニーとかビクターとかそういう会社からじゃないとこんなちゃんとした音のものは作れないと思っていたので、こんなすばらしい音像のCDを創れる人ってどんな人なんだろうって思ってた。また、この曲のオープニングのリズムトラックの音が好きで、そういうドラムだけじゃなくて、プログラムで音が作れる人ってのと出会いたいと強く願っていた時期だったので、寺島さんにお願いして会わせてもらった。

  初めて会ったときのことはあんまり憶えていないけれど、ちゃんとしっかりしゃべったのは多分「日向」というユニットのライブの後だ。原田さん、寺島さん、森さんがやっていたバンドで、その打ち上げに僕は乱入して森さんとしゃべった。僕が一生懸命森さんにしゃべっていると寺島さんが「崇はバンドクラッシャーだから気をつけろよ」といった。
  森さんは「そんなことないよ」と反論したが、寺島さんは「いやだってブラックオブジェを解散させたのはお前やろ」といった。
「いやいや、ブラックオブジェはそれぞれのメンバーがもっと、がんばらなあかんと思ってそういって、その結果みんながいい活動が出来るようになったからいいねん」と森さん
「でもバンドを解散させたのはお前やろ?」
「うん、まあな」
「ほらみろ」
  みたいな会話がえんえん続いていた。
  僕が何をしゃべったのかまるで覚えていない。ただ、先日森さんに聞いたところ「第一印象はよくなかった」といっていたから、まあなんかつまらないことをしゃべったんだろう。
  僕は基本的に第一印象で人に好かれることはまずない。大概嫌われる。
  なぜかはわからないけれど、僕の周りに人たちは「なぜわからないのかわからない」という。

  とにかく、僕の中で森さんは「すごい音を作る、すごい人」というイメージでどんどん神格化していった。録音は出来るは、リズムトラックは作れるわ、ドラムは叩けるわ、コーラスは出来るわでもう大騒ぎな人だった。
  そんな折、僕はハラッパ=カラッパというバンドのレコーディングを寺島さんに頼み、すさまじい紆余曲折の末、1年がかりで6曲入りアルバムを完成させた。そのマスタリングを森さんに頼むことになった。
  僕は、ミックスが終わりたての音源を持って、森さんのやっているBOSCOというスタジオに寺島さんと車で向かった。車内で僕は寺島さんに「ねえ、森さんとバンドをやりたいんだけど」といったら「じゃあ今日言ってみたらいいやん」といわれた。僕の中でその日の目的は「ハラッパ=カラッパのマスタリング」ではなく、「森さんとバンドをすること」になった。

  果たして森さんはハラッパ=カラッパの音源を気に入ってくれるのか。そして、気に入ったとしてもバンドを一緒にやってくれるのか。そんなことを考えながら、僕と寺島さんはBOSCOへ向かったのでした。
  全然関係ないけど、その途中で大原のセブンイレブンに寄った。
  このセブンイレブンは後にロボピッチャーのメンバーから「テラコンセブン」という呼び名で愛されるあの素敵なセブンイレブンである。ちなみに名前の由来は「寺島さんが大好きなコンビニ、セブンイレブン」を略して「テラコンセブン」である。

 
  次回「森さんについて 後編」に続く。



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